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静岡地方裁判所 昭和44年(ワ)1007号 判決

原告

樽味宏

ほか三名

被告

村上豊

主文

被告は原告操に対し金三三九万一七四五円、原告寿に対し金五〇万円、原告宏に対し金一〇〇万円及び右各金員に対する昭和四二年九月九日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

原告操、同寿、同宏、その余の請求、原告寿恵子の請求を棄却する。

訴訟費用中、原告操被告間に生じたものは八分しその一を被告その余を同原告の、原告寿被告間に生じたものは九分しその一を被告その余を同原告の、原告宏被告間に生じたものは六分しその一を被告その余を同原告の、原告寿恵子被告間に生じたものは同原告の各負担とする。

この判決は第一項に限り仮りに執行できる。

事実

第一原告等の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告樽味宏に対し金六〇〇万円、同樽味操に対し金二、八五〇万円、同樽味寿に対し金四七〇万円、同越智寿恵子に対し金二〇〇万円及び右各金員に対する昭和四二年九月九日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

第二原告等の請求原因

(一)  身分関係

原告樽味宏は夫、同樽味操は妻、同樽味寿は右両名の子、同越智寿恵子は原告樽味操の母である。

(二)  事故の発生

左記交通事故(以下本件事故という。)が発生した。

(1)  事故発生日

昭和四二年九月九日午後二時三〇分頃

(2)  発生場所

神戸市須磨区若宮町一丁目一番地先路上

(3)  加害車及び運転者

トラツク(神戸一き六六一三号・八トン車、以下事故車という。)

被告村上豊

(4)  被害者

原告樽味操及び同寿

(5)  態様

事故車がトンネルマシン用鉄枠(約一一トン)と鉄板(約一一三六キログラム)を積載して運行中、鉄板が縛着されていなかつたので落下し原告樽味操、同樽味寿に当つた。

(6)  事故の結果

原告樽味操は、本件事故により右側観骨と鼻骨の各骨折をともなう右側上顎骨の著しい陥没骨折、骨盤骨折、腰椎第四、五横突起(左)骨折、左大腿骨開放骨折、全身打撲等の傷害を受け、その結果(イ)右眼窩部の陥凹、眼球位の不均衡化、鼻変形、前額部から右上眼瞼部にかけての瘢疵等々による顔ぼうの著しい変形、(ロ)矯正不能の著しい複視、極度の視力減退、眼球運動障害、(ハ)著しい開口障害、かみ合せ不適合、右側での咀嚼不能、奥歯二本等の欠損、(ニ)右側鼻づまり、嗅覚減退、(ホ)眼凹部、鼻右側、顎関節部などの疼痛、偏頭痛、顔面の一部の神経麻痺、(ヘ)骨盤変形、腰部脱力感、(ト)左大腿の内反と左下肢長の不均衡化、左膝関節の甚しい運動障害(可動域は一五五度―一七〇度の間だけ)、左大腿下1/3部にある傷痕の著しい醜形、(チ)後頭部と左手の皮膚の傷痕、(リ)感情不安定等の後遺障害を残した。

原告樽味寿は、本件事故により前額部剥皮創、頭部外傷第Ⅱ型、頭蓋骨骨折の傷害を受け、その結果前額部より左上眼瞼を経て左耳に及ぶ長大且つ著しく醜い瘢痕の後遺障害を残した。

(三)  責任原因

村上豊は、本件積荷の確認に周到さを欠き鉄板の存在に気付かず、これを縛着せず漫然と事故車を運転進行した過失により、本件事故を惹起したものであるから、民法第七〇九条による責任がある。

(四)  損害

1  原告樽味操関係

(1) 逸失利益 左記金額のうち金二一〇〇万円

原告操は、神戸大学教育学部を卒業し、昭和三六年四月より神戸市内の小、中学校の教師として奉職していたところ、原告宏との間の子原告寿の育児に専念するため昭和四〇年年末に一旦退職したが、遅くとも昭和四五年四月には教職への再就職を予定していた。

(イ) 主婦としての損害

原告操は、本件事故当時、満二九歳の主婦として、昭和四三年政府の自動車損害賠償保障事業損害査定基準の月収三万四八〇〇円相当の収入をあげえたであろうところ、本件事故により前記の通りの傷害のため昭和四五年三月まで(三一ケ月)主婦として休業を余儀なくされた。そこでホフマン式計算法により月5/12%の割合による中間利息を控除して現在の価額を算出すると原告操の得べかりし利益の総額は金一〇一万二六一〇円となり、同額の損害を蒙つた。

34,800×29.098(ホフマン係数)=1,012,610

(ロ) 教師としての損害

(Ⅰ) 原告操は、昭和四五年四月には教師として再就職し(満三一歳三ケ月)、満五八歳までは教師として稼働しうるものと考えられるところ、前記のような本件事故による後遺症のため収入を得る能力を全く喪失した。そこで教師としての給与、賞与の本件事故当時の現価を(毎月支給されるものであるから月毎に)ホフマン式により月5/12%の割合による中間利息を控除して算出すると別表(四)のとおりで、その合計額は金二九三三万六四三四円となる。

(Ⅱ) 退職手当(三五二ケ月後)の本件事故時の現価をホフマン式計算法により中間利息を控除して計算すると金二五三万九六一二円となる。

最後の給料(142,400円(注)+教職調整額5,696円)=148,096円

148,096円×423(公立学校職員等の退職手当てに関する)条例第5条の勤続年数26年余に対する数値)×0.4054(ホフマン係数)=2,539,612円

(注別表(四)参照)

(Ⅲ) 退職年金の本件事故時の現価をホフマン式計算法により中間利息を控除して計算すると金六四一万一三三七円となる。

1,746,576円(最後の3年間)(昭和69年1月から昭和71年12月)の平均年額(給与月額と教職調整額)×(40/100+1.5×11/100(地方公務員等共済合法に定める在職期間合計31年(最初の4年9ケ月も含める)の数値)=986,815円(1ケ年の支給額)

(之は地方公務員等共済組合法第78条による計算に基づく)

そして昭和46年度簡易生命表によれば同年における原告操と同年齢の日本人女子の生残年齢は44.5歳であり58歳退職後退職年金受領は19.5年(原告操77.5歳まで可能であるからこの年齢をホフマン式計算法で中間利息を控除して算出すると6,411,337円となる。)

(2) 慰藉料 金八〇〇万円

治療経過、後遺症の程度等から考えて、原告操が本件事故により蒙つた精神的苦痛は絶大なものがあるので、これを慰藉するには八〇〇万円が相当である。

(3) 原告寿の負傷による慰藉料 金一〇〇万円

2  原告樽味宏関係

(1) 雑費 左記のうち金一〇〇万円

病院代 二万三七八五円

医薬品 一万七九二〇円

歯科治療費 三〇円

メガネ 二万円

氷代 四一八〇円

進物、謝礼、附添心づけ 一七万八〇〇一円

附添婦心づけは原告操の傷害が余りにも重傷のため附添婦が之を嫌つたため支出せざるを得なかつた。

交通費、宿泊費 一三万七二〇五円

電話 二五六一円

入院のため必要となつた用品 八万一四〇二円

新聞、雑誌類 一万四五五〇円

運動に必要な用具 六七〇円

栄養費 一四万三二〇六円

原告操の化膿が激しく医師の指示により体力をつけるため特に摂取した。

本件第一審着手金 三五万円

(2) 原告操の負傷による慰藉料 金四〇〇万円

本件事故は死亡に勝る程の例であるところ、原告宏は妻操の負傷、後遺症等により蒙つた精神的苦痛は絶大なものがあるので、これを慰藉するには四〇〇万円を相当とする。

(3) 原告寿の負傷による慰藉料 金一〇〇万円

3  原告樽味寿関係

(1) 逸失利益 金一五〇万円

原告寿は祖父母及び父母の教育程度、職歴から考えて、将来相当の教育を受けたのち、成人して生涯に亘り、通常の男子一般労働者の平均賃金を遙にこえ、少くとも母操と同程度の収入をあげえる職につきえたといえる。ところが本件受傷により顔面に前記のような大傷痕を残し右は労働基準法施行規則所定の身体障害等級表及び労働基準局通達別表労働能力喪失表により喪失率一四%であるから、右による得べかりし利益の喪失は一五〇万円をこえる。

(2) 慰藉料 金二〇〇万円

本件事故による受傷、後遺症の程度等から考えて、原告寿が本件事故により蒙つた精神的苦痛は絶大なものであるので、これを慰藉するには二〇〇万円が相当である。

(3) 原告操の負傷による慰藉料 金一五〇万円

4  原告越智寿恵子関係

原告操の負傷による慰藉料 金二〇〇万円

(五)  損害の一部填補

原告操、同寿は本件事故により蒙つた損害の填補として原告操において自賠責保険金一五〇万円(後遺障害補償費)、四〇万七四五七円(うち慰藉料五万円、後遺障害補償費三一万円)の給付を受けたが、原告操については前記請求中に右填補額を含まず、原告寿については、前記請求中に慰藉料五万円及び後遺障害補償金一万円が含まれているので、計六万円を控除する。

(六)  よつて被告は原告宏に対し金六〇〇万円、同操に対し右損害残金の内金二八五〇万円、同寿に対し右損害金の内金四七〇万円より六万円を控除した四六四万円、同越智寿恵子に対し金二〇〇万円及び右各金員に対する昭和四二年九月九日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告は適法な呼出を受けながら本件各口頭弁論期日に出頭せず答弁書その他の準備書面を提出しない。

理由

原告等主張事実は被告が明かに争わないからこれを自白したものと看做すことができその事実によれば、原告操、同宏が被告の過失によるその主張の事故のためその主張の傷害を蒙つたことが認められる。

一  原告操の損害

(1)  逸失利益

(イ)  休業損害

その主張事実によれば昭和四五年三月迄三一ケ月間主婦として休業を余儀なくされたのであるから昭和四二年の満二九歳の全産業労働者の女子一人当り月間給与額二万三七〇〇円平均年間賞与その他の特別給与額は六万八〇〇円を下らないから、その間の休業損害は八九万一七四五円となる。

(23,700円+60,800円/12)×31=891,745円

(ロ)  同原告の教職に復帰することを前提とする損害は、その主張の希望する頃教職に復帰し、教師としての給与を得ることができるとする程の蓋然性は認められないから認容できない。

(2)  慰藉料 二五〇万円

(3)  原告寿負傷による慰藉料 認容しない。

原告寿の傷害の程度はその主張によつても生命侵害に比肩する程度のものではないから認容できない。

二  原告寿の損害

(1)  逸失利益 認容しない。

その主張の傷害が同人の将来における労働能力の喪失を招くとは認められない。

(2)  慰藉料 五〇万円

(3)  原告操負傷による慰藉料 認容しない。

一(3)と同一理由による。

三  原告宏の損害

(1)  雑費 一〇〇万円

その主張事実により認められる。

(2)  原告操、同寿負傷による慰藉料 認容しない。

一(3)と同一理由による。

四  原告寿恵子の損害 認容しない。

一(3)と同一理由による。

以上の次第で原告等の本訴請求は原告操において金三三九万一七四五円、原告寿において金五〇万円、原告宏において金一〇〇万円及び右各金員に対する事故日である昭和四二年九月九日以降完済に至る迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容すべきであるが、右原告等のその余の請求、原告寿恵子の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用負担については民事訴訟法第九二条第八九条、仮執行宣言については同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 松浦豊久 鈴木清子 小山邦和)

別表一 中学校、小学校教育職2等級

〈省略〉

別表二 中学校、小学校教育職2等級

〈省略〉

別表三 中学校、小学校教育職給料表2等級

〈省略〉

別表四

〈省略〉

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